パネル討論2 軍隊のない世界へ

戦争に協力しない人、地域、国家
2008年5月5日 午後2:30~4:00
201A会議室

本セッションは、戦争参加を拒否する個人、地域、国家の可能性と論理を追及するために設定された。


すなわち、9条を世界に広める目標を掲げる場合、9条の条文そのもの(ないしその他の平和条項)を各国憲法に導入してもらうのが一番であるが、それだけではなく、9条の思想を実質的に採用してもらう、あるいは、9条とは異なる形であっても非武装への途を選択してもらうことが望まれる。そのためには、それぞれの国家に非暴力や非武装の思想を広めていく必要がある。だが、いきなり国家レベルで非暴力や非武装を実現するのは容易ではない。むしろ、個人のレベルで非暴力と非武装の思想をしっかり身につけ、社会における実践を積み重ねていく必要がある。


戦争協力を拒否し、ピースゾーンや平和な世界を実現するために、個人として私たちには何ができるのか。地域において何ができるのか。私たちが属する国家をいかにして変えていくことができるのか。各地における経験に学ぶことが喫緊の課題である。



3つの報告がなされた。
1)イム・ジェソン「韓国の兵役拒否運動の現況と展望」
2)クリストフ・バーベイ「軍隊なしで生きることはまさに可能である」
3)カルロス・バルガス「コスタリカの事例――軍隊の廃止」
以下、報告の概要を紹介する。



1)第一報告は、イム・ジェソン(林宰成、良心的兵役拒否者、韓国)による「韓国の兵役拒否運動の現況と展望」である。報告者自身が兵役拒否により収監された体験を踏まえて、現在は他の兵役拒否者への支援をするとともに、戦争のない世界へ向けた平和運動に取り組んできた経験を基にした報告である。韓国における兵役拒否は、日本による植民地統治時代に始まるが、今日的な運動が始まったのは2000年に開かれた市民フォーラムの場で、米フレンズ奉仕委員会(AFSC)の活動家による報告を受けたことがきっかけである。今日、欧州諸国をはじめとして、兵役拒否について、軍務の拒否を認めて代替措置としての服務(たとえば病院勤務などが代表的である)という形で代替的兵役拒否が認められる例が増えているが、韓国では代替的兵役拒否が認められていない。このため韓国における兵役拒否は直ちに兵役法違反の罪となり、裁判にかけられ、有罪となれば収監される。また、朝鮮戦争以来の国際情勢のもとで韓国社会は軍隊に対する信頼と期待が強いため、兵役拒否者に対する社会的批判が厳しい。進歩勢力の間でも、民主化を求めるための対抗暴力が運動の中で採用されてきたため、兵役拒否に理解を示さない人も多い。このため政治的信念や宗教的信念による兵役拒否者には多大の困難が待ち受けている。しかし、平和思想の普及や、米軍基地拡大反対闘争のなかで「軍隊より農地が大切」という考え方も広がり、戦争や軍隊への疑問をもち、戦争協力拒否や兵役拒否がようやく理解を得られる状況になってきた。憲法9条を持つ日本は「良心的軍隊拒否国家」であり、世界の平和主義者に感銘を与え続けている。憲法9条を世界に広げるとともに、戦争協力拒否の権利を確立したい。


2)第二報告は、クリストフ・バーベイ(法律家、平和研究者、スイス)による「軍隊なしに生きることはまさに可能である」である。報告者は、NGOの軍縮を求める協会コーディネーターであり、「軍隊のないスイス」運動にもかかわった。ピースゾーンや軍隊のない国家について調査してきた。今日、世界には軍隊のない国家が27カ国ある。現存する軍隊のない国家は小国なので軍隊を保有できないのが実情である。しかし、軍隊のない国家の経験、平和的手段で平和をつくる経験は、非常に参考になる。ガンディーの表現を借りるならば、「無力であることの力」である。軍事力、暴力、戦争によってではなく、平和の力を示している。700年以上の平和を保ってきた軍隊のないアンドラは、国際平和のために積極的に努力している。アイスランドは漁業権をめぐる紛争を弾丸なしに解決してきた。リヒテンシュタインはドイツやオーストリアの圏域で軍隊を保有しないことによって中立を維持してきた。1990年代以後、脱軍事化を進めた国もあれば、再軍備した国もあるが、軍隊のない国家が増加する可能性はある。なぜなら、現代において軍事力によって安全を維持するのは困難であることがますます明らかになってきた。世界の人々が軍事力によらない平和を求めている。平和に関する研究、平和学も発展してきた。平和を維持しなければ人道にとっての未来はない。人権は平和の上に築かれる。今日、パナマ、コスタリカ、キリバスのように憲法に軍隊不保持を規定した国家も出ている。より多くの国々が憲法9条を採用することが望まれる。


3)第三報告は、カルロス・バルガス(コスタリカ大学教授、国際反核法律家協会副理事長)による「コスタリカの事例――軍隊の廃止」である。報告者は外交官を経て、国際法研究者となり、コスタリカにおける軍隊の廃止を日本や世界に紹介し、平和をつくる努力を続けてきた。なぜコスタリカは軍隊を廃止することができたのか。軍隊の廃止は1948年であり、軍隊を廃止する憲法12条は1949年に規定された。人権、平和教育、環境保護、民主主義、持続可能な発展といった要因が結びついて、コスタリカ社会における軍隊の廃止をもたらした。歴史的経過としては、1948年の大統領選挙をきっかけとして内戦が生じ、国民が犠牲になった苦い経験を教訓として軍隊の廃止に繋がったが、単に偶然的な出来事ではなく、軍隊の廃止を支える要因の結びつきが重要である。中央アメリカは軍事紛争が続いてきた地域であり、この地域においてコスタリカが平和的統合を維持してきたことは非常に重要である。大半の諸国が軍事費を増大させてきた中で、40年もの間、軍隊不保持政策を貫いてきたことは稀有の事例であるが、諸国にとって有益な経験となるだろう。中央アメリカの軍事紛争のみならず、コスタリカはアメリカによる再軍備要求の圧力にもさらされてきた。世界最強の軍事国家であるアメリカとコスタリカの間には対等平等な外交がなかなか成立しにくいが、コスタリカは積極的平和主義の外交政策を一貫して採用してきた。中央アメリカにおける平和促進と人権擁護に関してコスタリカは鍵となっている。軍隊を廃止したがゆえに経済的にも成功した国家となっている。憲法9条やコスタリカ憲法12条は、国家が軍隊なしでもやっていけるという思想を明示したものであり、この思想は実現可能な思想である。


なお、軍隊不保持の憲法は現在5つあると思われる。
1921年 リヒテンシュタイン憲法44条(現在は2003年憲法44条)
1946年 日本国憲法9条
1949年 コスタリカ憲法12条
1979年 キリバス憲法126条
1994年 パナマ憲法305条(現在は310条)
コスタリカ憲法12条は常備軍の廃止規定であり、完全非武装規定ではないが、憲法12条だけではなく、リオ条約、ボゴタ憲章、国際人権規約なども総合的に理解して非武装の原則を採用している点が重要である。


時間の制約から参加者との質疑応答や討論を行うことができなかった。セッション終了後に個別に寄せられた意見には次のようなものがあった。
1)韓国における兵役拒否のことはまったく知らなかったので、興味深い報告であった。
2)憲法9条があるから兵役拒否のことは考えずにすんでいたが、今後の日本は不安である。兵役が導入されないよう憲法9条をしっかり守りたい。
3)軍隊のない国家がたくさんあるとは知らなかったので驚いた。
4)軍隊のない国家の具体的な歴史、文化、平和政策などをもっと知りたい。
5)軍隊のない地域としてのピースゾーンについての報告があればもっと良かった。
6)コスタリカのことは知っていたが、直接バルガス教授の話を聞けて良かった。
7)コスタリカの隣のパナマも軍隊を廃止したというので、詳しく知りたい。
個人の思想としての非暴力は社会や国家のレベルにも応用できる。非武装や無防備の歴史的経験をさらに調査・研究して、憲法9条の思想をいっそう豊かに開花させるために、本セッションが手がかりを提供しえたものと思う。


(文責:前田 朗)
投稿者:金熊 | 分科会レポート | comments (0) | trackbacks (0)

Comments

Comment Form

icons:

Trackbacks

ホーム