パネル討論1 グローバリゼーションと戦争

2008年5月5日 午前10:00~12:30
303会議室

このパネルは、スイスに本部を置く国際平和ビューローから「9条世界会議」への代表として参加した「軍隊のないスイス」の活動家フレデリック・デュランさん、ケニアの「社会的責任を求める医師の会」のディレクターであり、またストックホルム残留性有機汚染物質条約設立会議で活躍しているポール・サオケさん、外国基地廃絶国際ネットワークの調整委員会メンバーであり、非核独立太平洋事務局の代表を務めるフィリピンのコラソン・ファブロスさんをパネリストとして行われました。アジア太平洋、アフリカ、そしてヨーロッパに活動のベースを置く3人から、グローバリゼーションという現実とその影響について、マクロとミクロのレベルから、明確な分析も加えながら話していただきました。


9.11以来、米国主導の「反テロ戦争」によって軍事費は空前の高騰を続けています。10年前に比べると37%増えている世界の軍事費は総額1兆2040億ドルとなり、G8諸国は、このうちの80%を支出し、なかでも米国は、総軍事費の48%を支出していますが、軍事費の高騰は、軍需産業の繁栄を意味し、兵器の生産、売買のみでなく、民間軍事会社の「社員」を紛争地に派遣することも含めて、まさに戦争の民営化が現実となっています。「グローバリゼーションは紛争をもたらす」と言い切ったサオケさんの言葉が示すように、「民主主義、開発、自由」といった旗印をかかげて自然資源の豊かな国にその収奪を求めてやってくる大国のエゴが、あらゆるレベルでの破壊をもたらしています。


経済のグローバル化は、このように世界の貧富の差をますます拡大し、環境破壊を深刻化しています。国際的金融システムと機構(世界銀行、IMF、WTOなど)に支えられて、グローバリゼーションは開発途上国の資源を収奪し、人権を無視した利潤の追求を続ける強力な企業に過大な権益を与えている中で、軍事力はこのような社会的不正義を維持するために利用され、外国の軍事基地(おもに米国の)と世界中を移動可能とする軍隊は、人々が自分の権利と自由のために声をあげ行動することを阻止するために使われています。


「自衛」のために膨大な費用を注ぎこみ、軍事予算を教育、医療、福祉よりも優先する国家の安全保障政策は、武力によって安全を保障すると言いながら、実は人間の生存権と地球のいのちすべてを真っ向から否定する結果をもたらしています。反テロ戦争はテロリズムを触発し、宇宙の軍事化を射程内におく軍事力の強化は、この地球をこのうえもない危険にさらしているのです。デュランさんの「持続可能な非武装化がないかぎり、持続可能の開発と発展は不可能だ」という力強い提起に会場いっぱいの人々が大きくうなづいていました。国家の安全保障を優先課題とする政治のありかたが、恐怖と憎悪を操作しながら、合法的に人権侵害を行い、軍拡競争を増大させている現実にたいし、「国家の安全保障」のパラダイムを根本的に変え、真に人間の安全保障を焦点とすることが緊急な課題です。


人間の安全保障の最大の障害は国家の安全保障政策であることは、ファブロスさんのお話の表題「米軍基地と基地協定がグローバリゼーションを保障する」が如実に顕しています。米国は、世界の129カ国と軍事協定あるいはそれに準ずる取り決めを保持し、769の軍事基地を自国の外に持っています。この数字にはイラクとアフガニスタンが含まれていません。基地の存在は、その地域に生活する人々を日常的にあらゆるレベルで脅かします。つまり人々に戦争という暴力と背中あわせの生活を押し付け、環境破壊、騒音、犯罪、とくに女性にたいする性犯罪の被害などをもたらします。ファブロスさんは、基地が新植民主義のレシピであり、受け入れ国の主権を否定する暴力的存在であると述べて、米軍基地についてのブッシュ大統領の言葉を紹介しました。「外国における米軍の存在は我が国の同盟国にたいするもっとも意味深いシンボルである。我々と彼らを守るために、すすんで武力を行使することは、自由を擁護する力のバランスを保つ我々の決意を表している。不確実性と戦い、安全保障に関する多くのチャレンジに応えるために、米国は西ヨーロッパ、北東アジア、そして全世界に長期間の米軍配備のためのアクセス協定の確立を必要とするのだ。」このような言葉の裏側には、石油をはじめ、多くの自然資源を確実に自由にわがものとするための世界制覇のマップが存在しているのです。


サオケさんは、グローバリゼーションの「もっとも醜い顔」が、どのように人々の生存権を踏みにじっているかをアフリカの現実から説明し、「地球を殺しているのは、企業とか組織ではなく、名前のある顔のある人々だ。彼らの行動と決定が、戦争、死、飢餓、疾病、森林破壊、洪水、旱魃、オゾン・ホールの拡大、気候変動、暴力的な嵐、新生代の終結をもたらしているのだ」と強く訴えました。弾丸が通貨として通用し、こども兵士が使いやすい軽量の武器が大量に持ち込まれているアフリカの国ぐにで、ソマリアのような国は殺戮のための武器の市場として必要とされているというサオケさんの指摘は、私たち一人ひとりが、変革のために行動することを促しています。


今こそ米国とその同盟国による世界支配に代わる力の構築が必要であり、そのために市民社会は、その動員力を強め、平和な世界を実現するために同じ方向に向かって力をあわせなければなりません。たとえば、膨大な軍事費のほんの数パーセントで、ミレニアム開発目標は達成させることは不可能な夢ではないはずです。地球市民のグローバルなネットワークが、世界の政治と経済を動かすすべてのアクターズの政治的意志に働きかけ、「もうひとつの世界」の実現を可能にする営みはすでに始まっています。


さまざまなレベルでオルタナティブを促進する多くの運動体や組織がいかに効果的につながるのか、同時に破壊と死をもたらす現実にたいする"NO"をどのように構築するのか、グローバルにローカルに考え、行動する有機体としての地球市民が、目に見え、耳に聞こえ、肌に感じられる力強い存在となることが求められているのです。


デュランさんが代表する「国際平和ビューロー」を始め、変革のために立ち上げられたさまざまなプログラムが存在しています。持続可能な軍縮、非武装,非核を確実に実現するために、パネルはとくに小型武器、小火器の生産と売買をただちに中止すること、また政府にたいして核兵器条約の新しい提案の採択を強く要求する必要を訴えました。このパネルで話された現実の一つひとつを見過ごすことなく、まわりの社会に伝え、行動の輪を広げることが、9条をあらゆるレベルで生かす私たちの選択であることを確認して2時間半の密度の濃い時間を終えました。


(文責 弘田しずえ)
投稿者:金熊 | 分科会レポート | comments (0) | trackbacks (0)

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